2016.6.20 月曜日

ついに肥満体国アメリカで全廃! 日本では今も使われる「プラスチックな油」


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2015年11月、こんな話題が報道されました。「アメリカの食品医薬品局(FDA)は、トランス脂肪酸の原因となる油脂の使用を2018年6月までに原則禁止することを決めた」。トランス脂肪酸は、世界保健機関(WHO)が10年以上も前から「大量に摂取することで肥満や、心筋梗塞など心血管疾患の原因にもなる」として、その使用に警鐘を鳴らしていました。こうした発表から欧米各国ではトランス脂肪酸の規制およびを排除した食品開発を進めてきましたが、ついに肥満体国アメリカが「全廃」に踏み切ったのです。

体に様々な悪影響を及ぼす「食べるプラスチック」

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トランス脂肪酸は、植物油の過熱や加工した段階でできる不飽和脂肪酸という脂質の一種です。水素をくわえて硬化させたマーガリンやショートニングといった硬化油に含まれる成分で、常温で個体になる性質をもち、揚げ物やパンなどが「サクサク」に仕上がることから、加工食品を中心に大量に使用されてきました。酸化しにくく、保存性が高いという特性はプラスチックそっくり。いわば「食べるプラスチック」と言えるでしょう。

このトランス脂肪酸は高い安定性を持ち、常温で固体になるため、体内でも凝固しやすく、血液を「ドロドロ」の状態にします。悪玉コレステロールを増加させ、逆に善玉コレステロールを減少させるなど、健康に様々な悪影響を与えます。

がんの原因になる活性酸素を作ったり、体を作る上で重要な脂肪酸の機能を妨げたり、狭心症や心筋梗塞など心血管疾患の原因ともいわれています。また、肥満を発症させやすく、アレルギー疾患を増加させ、特に妊婦の摂取は胎児の体重減少や流産、死産を生じさせる可能性があることが指摘されています。

また、血中の中性脂肪の大部分を占めるトリグリセロールが増加することで、インシュリン抵抗性が増し、高血圧や糖尿病、心臓病の原因にもなると言われています。また、口から肛門まで、全消化管に炎症性の潰瘍などの病変ができる「クローン病」との因果関係がドイツの研究所で指摘されています。

規制の緩い日本の現状と若年層におけるリスク

こうした様々な健康リスクが明らかになり、欧米では撤廃の動きが活発化しています。米国に先駆けてデンマークでは2003年に、スイスでは08年、オーストリアでは09年に、100g当たり2g以上のトランス脂肪酸を含んだ油脂の国内流通を禁止し、それ以外の多くの国で食品含有量表示を義務付けています。

FDAの報告によると、2000〜2002年のアメリカ人一人当たりの1日の摂取量は5.6グラム、総エネルギーの2.2%に上っていました。翌年の2003年にWHOは1日当たりの摂取量を総エネルギーの1%未満に抑えるように勧告しています。

一方日本では、欧米との食習慣の違いを鑑み、摂取量が少なく健康への影響は少ないと判断され、トランス脂肪酸の含有量についての表示義務はありません。確かに、食品安全委員会が推計した2008年度の日本人一人当たりのトランス脂肪酸摂取量は、約0.7g(摂取エネルギー換算では約0.3%)と、WHOが示した「摂取エネルギー換算で1%未満」という数値は下回っています。しかし、ここには外食や菓子類を多く摂るなど、偏った食事をする人については考慮されていません。

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厚生労働省は、平成17年度国民健康・栄養調査結果で「脂質からのエネルギー摂取30%以上の者の比率が漸増していた」と指摘しています。特に若い人たちにとって、ファストフードメニューは日常の食事として当たり前。コンビニエンスストアでは揚げ物メニューが手軽に購入できるようにもなっています。年代によってはトランス脂肪酸の摂取量は調査よりも多い可能性があるのです。

たとえば、100g当たりのトランス脂肪酸の含有量は、たとえばマーガリンであれば7.0g程度、ショートニングが最も多く100g中13.6gです。うちではあまり使わないという人でも、ショートニングを使ったクッキーやパン、ケーキや、外食で揚げ物(特にドーナッツやハンバーガーなど)を食べる機会が多ければ、結果としてかなりの量を摂取しています。

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知らず知らずのうちにトランス脂肪酸を体に入れてしまっている可能性があるのです。

トランス脂肪酸を排除し、摂取する油そのものを見直す

現在、WHOやFDA、また欧米の動きなどから、日本の食品製造業界でもトランス脂肪酸を排除しようという動きも出ていますが、あくまでも企業の自主的努力によるものです。

まずは表示がない状況下で、トランス脂肪酸を摂取しないようにするためには、まず不飽和脂肪酸を固めたショートニングやマーガリンなどを避けること。そして液体の「植物油」「植物油脂」「植物性油脂」「加工油脂」などもできれば避ける方がベター。というのも、「圧搾絞り」「コールドプレス」意外の製法では、加熱処理が行われ、その過程でトランス脂肪酸を発生させてしまうからです。また、古い油を使わないこと、古い油を使った揚げ物などを食べないことも大切。また、使用されている可能性の高いスナック菓子や加工食品、ファーストフードなどの外食などを避けることが重要です。

また、たとえトランス脂肪酸を摂らないようにしたとしても、その代わりに飽和脂肪酸の摂取が増えてしまっては、また別のリスクを負うことになります。たとえば、マーガリンを自宅から排除したとしても、バターたっぷりのトーストを毎日食べるようであれば、飽和脂肪酸の摂取を増やすばかりです。動物性油脂に多い飽和脂肪酸は摂り過ぎると動脈硬化の原因ともなり、心臓疾患のリスクを高めることが立証されています。

摂取する油の総量はもちろん、油の種類にも気をつけることが大切。本サイトの「食べたい食品」の油についての記事も併せてご覧いただき、バランスの取れた油の摂取を心がけるようにしましょう。

参考

食用油に含まれるトランス脂肪酸、18年に全廃 米当局「安全でない」
http://www.sankei.com/world/news/150617/wor1506170016-n1.html

米で「トランス脂肪酸」禁止 削減対策進む国内企業
http://www.sankei.com/life/news/150629/lif1506290017-n1.html

公)日本栄養士会 食品に含まれている栄養素と健康
http://www.dietitian.or.jp/consultation/e_03.html

『食べて悪い油 食べても良い油』(渡辺雄二著 静山社文庫)

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