2016.9.20 火曜日

「腸が元気なら心も肌も元気」の仕組み 〜マイクロバイオームのネットワーク〜


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私たち人間の生理機能をコントロールし、健康に大きく関与する「マイクロバイオーム」。その影響は「菌がいるところ」だけに限らず、様々な連携のもと他器官へ、全身へと波及していることがわかってきました。中でも興味深いのが「腸と脳」の連携です。腸が健全に働いていれば、脳もストレスに強くなるという研究が報告されています。はたして、どんな仕組みなのでしょうか。

細菌の働きがつなぐ?
腸と脳の密接なコネクション

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体の至る所に存在する細菌「マイクロバイオーム」の影響はその部分や器官だけでなく、全身に相互に関係しあっていると考えられています。たとえば、腸の内壁には数億個のニューロンからなる「腸管神経系」が埋め込まれており、そこに棲む微生物との連携のもと「異物」についての情報を処理しています。脳による指令ではなく、自律的に行われることから「腸は第二の脳」とも呼ばれています。そして、自律的な処理と並行して、腸のニューロンは迷走神経を介して脳と連絡しており、腸で得た情報を脳に送っています。こうした連携から、「腸内細菌によって腸が正しく働けば、脳も健やかに働く」と考えられているわけです。

たとえば、2004年の九州大学の須藤信行教授の研究によると、腸に細菌を持たない無菌マウスは、通常のマウスを比べると、ストレス環境に対する不安を感じやすく、学習や記憶力などが低いといいます。そして、細菌を投与すると通常のマウスレベルに戻ったとのこと。しかし、カナダのマクマスター大学 脳身体研究所のビエネンストック氏の実験で、成体マウスには細菌投与による改善効果がないなどの研究結果もあり、その効果はある発達期に限られるとも考えられています。一方で、迷走神経を切断した個体については、腸の状態とストレスの反応とに関係性が見られませんでした。つまり、迷走神経を通じて腸内細菌の活動が脳に働きかけると考えられているわけです。

また人間については様々な事象が関係性の証明となると考えられています。たとえば、腹痛に苦しむ幼児は腸内細菌の多様性が低い傾向にあるという報告があります。また、2011年にはフランスでプロバイオティック補助食品の抗不安効果を示す結果が得られており、カルフォルニア大学でもプロバイオティック乳製品を摂取したグループの方が脳の活動安定性が高く、感情的な写真への反応も弱いことが示されています。

こうした研究結果から、腸内の細菌が良好な状態にあれば、脳における記憶力や認知力が上がり、精神的にも落ち着いた状態を保つことができると言えるでしょう。とはいえ、「腸と脳が直結」というのは少々単純化しすぎかもしれません。腸と脳の働きの相関関係(または因果関係)を解明するためには、まだまだ体内の他の器官や細菌の働きを考慮し、連携システムなどを解き明かす必要があると考えられています。

腸内細菌を元気にすれば、肌もきれいに
腸と脳、皮膚の間のネットワーク

日常生活の中で関連性を実感するのが「腸と肌」でしょう。昔から、ニキビはストレスと深い関係にあるとされてきました。「腸・脳・皮膚」仮説として、英国の皮膚疫学者であるストークス氏とピルズベリー氏が提唱したのはなんと1930年代のことです。

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強いストレスにさらされると、迷走神経やホルモンを通じて腸に伝わり、腸の内壁が細かく収縮を行う運動(蠕動運動)が変化し、下痢や便秘へとつながります。その結果、腸内のマイクロバイオームが変化して、免疫系の働きに支障が生じ、腸管の透過性が高まります。そうなると通常は透過しない異物が血液中に流れ込んでしまい、アレルギーや皮膚の炎症へとつながるというわけです。そこでプロバイオティック療法を行って腸内のマイクロバイオームの健全化を支援したところ、皮膚の炎症が収まり、ストレスによる不安や鬱状態を軽減することができたといいます。

こうした仮説は、前述のビエネンストック氏のマウスによる実験でも立証されています。乳酸菌の投与によって、ストレスによって生じた皮膚炎が緩和され、発毛が回復したというのです。

これは腸を支援することで、皮膚に良い影響を与えたわけですが、研究が進めば、逆に肌のマイクロバイオームを健全化することで、腸の調子を整えたり、ストレス耐性を上げたりできるかもしれません。体の中で連携しあうシステムのボタンがどこにあるのか。その引き金の1つが「マイクロバイオーム」であることは間違いなさそうです。


この記事のコメンテーター
社)日本アンチエイジングフード協会 理事
医療法人社団 青真会
青山エルクリニック 院長

杉野 宏子
http://www.aoyama-eluclinic.com/
毎日食べる食事の消化・栄養吸収器官としてたいせつな腸。全長7メートルもあり、内腔の絨毛を平たく延ばすと腸粘膜の面積はテニスコート1面分にもなります。実はその表面には100兆個もの腸内細菌が住み、その最近の重さはなんと約1.5kgです。この腸内マイクロバイオームはお花畑のようにさまざまな種類が集まっているので、腸内フローラとも呼ばれています。近年、腸内マイクロバイオームが消化・吸収の補助をするだけでなく、さまざまな働きをしていることがわかってきました。
腸内マイクロバイオームは腸管免疫系を発達・活性化しています。しかしそのバランスが破たんすると、腸管バリア機能が低下し、腸内の炎症が全身に波及します。皮膚に炎症が波及した場合、シミ・シワ・タルミの原因となり、ニキビなどの肌トラブルに見舞われます。ですから美しい肌、タルミのない肌を目指すには、腸内マイクロバイオームをバランスよく育てることが必要です。
マイクロバイオームの餌となるオリゴ糖や食物繊維を摂取して自分の腸内細菌を育てましょう。乳酸菌生成エキスやフラボノイドの摂取も有効ですよ。