2017.1.23 月曜日
咀嚼力 〜認知症にも学力アップにも効果あり!?〜
子どもの頃に「よく噛んで食べなさい」と言われて育った方も多いでしょう。よく噛むことで、食べ物が細かくなり、唾液と混ざりあうことで消化が良くなる。それだけでなく、近年では、肌や内蔵の傷への抵抗力を上げて若々しく保ち、なんと脳にもよいということがわかってきました。
噛む刺激が、顔と脳を元気に若々しく保つ
人間がモノを噛む力は、大人で平均して約60kgと言われています。自分の体重とほぼ同じ力が歯の上にかかっているのですから、相当なものです。その刺激が「若々しさ」につながっているとしたらどうでしょう。
まず上げられるのが、若々しい”顔立ち”への効果です。噛むことによる刺激が歯からあごの骨に伝達され、筋肉を伝わって頭全体に伝わると、その刺激で細胞が活性化し、密度の高い骨を作り、筋肉を引き締めます。年をとると顔立ちがなんとなくぼんやりしてくるのは、この噛む力が低下するから。噛筋が低下するとなんとなく垂れ下がった印象をもたれてしまいます。つまりは、意識して噛むことを積極的に行うことで、しゃきっとした若々しい顔立ちを保てるというわけです。また、噛む刺激はリラックス効果があり、ストレスを軽減して、緊張を和らげる働きがあるため、表情の若々しさにもつながります。
となれば、もちろん「脳」を刺激しないわけがありません。1995年に米国カリフォルニア大学・心理生物学のS.A.ニーパー氏の研究において、運動量を増やしたラットの海馬(記憶を司る脳の部位)が活性化することがわかりました。
よく噛むという行為は、下あごの動きや舌の使い方など、極めて複雑な運動の組合せによるもの。顔の運動と捉えれば、その刺激は大きいことは明白です。
実際、神奈川歯科大学の小野塚實氏による、幼稚園児や小学生、大学生を対象とした実験では、毎日ガムを噛むとテストの成績が上がるという相関関係が結果として得られています。また、65歳以上のシニア層に対しての実験でも、同様に噛むことで記憶力が上がるという結果になりました。ポイントは姿勢を正して、しっかり噛むこと。それを実践している老人介護施設では、認知症や寝たきり率が下がっているとの報告もあります。
噛むためには歯が必要、歯がないと認知症になりやすい!?
愛知県の健康な高齢者4,425名のデータを分析し、「歯の数と認知症との関係」について導き出した結果をみてみましょう。
認知症の認定を受けていない65歳 以上の住民4,425名を対象とした4 年間のコホート研究の結果、年齢、 治療疾患の有無や生活習慣などに関わらず、歯がほとんどなく義歯もない人は、認知症発症のリスクが高くなることが示されています。特に、20 本以上歯が残っている人のおよそ2倍も認知症発症のリスクが高いことがわ かったのです。
逆をいえば、歯がほとんどなくても義歯を入れることで、認知症の発症リスクを4割抑制できている可能性 も示されています。
いかに、歯を使って食べること、この当たり前のような習慣が脳にとって大事かがわかります。
噛むことで出てくる「唾液」が若返りの薬!?
そしてもう1つ、噛むことのメリットは、物理的な刺激だけでなく「唾液」の分泌からも得られます。よく噛むと唾液が盛んに分泌されます。すると、細菌の働きを抑えて口腔中を清潔に保ち、虫歯や歯周病の予防につながります。プラスのスパイラルになるわけですね。
また唾液には、胃を保護して食べ物が流動しやすくするネバネバした「ムチン」という物質が含まれています。糖を分解するアミラーゼという酵素も含まれており、唾液が食べ物とよく混ざりあうことで消化がしやすくなるため、胃腸への負担を軽減します。その結果、胃潰瘍や胃がんなどの内蔵疾病にかかる率が下がります。
消化だけではありません。例えばリゾチウムはたんぱく質を分解する酵素ですが、細菌の増殖を抑えるなど抗炎症効果があり、腸内環境を整える働きを持つラクトフェリンや歯を石灰化して強化するスタテリン、免疫反応に関係する抗体 IgA、肌を丈夫に若々しくする EGF(上皮成長因子)なども含まれています。
これらの酵素やホルモンが噛むことで唾液とともに噴出し、自身の体を若々しくするというのですから、出さない手はありません。そのためには「しっかりと噛める力=咀嚼力」を高めることが大切です。やわらかいものを短時間で食べるのではなく、噛みごたえのある食べ物を意識して選び、時間をかけてよく噛む習慣をつけるようにしましょう。