2017.1.10 火曜日
~江戸式アンチエイジングのススメ~ “江戸の知恵”で健康な食を取り戻す! 日本人に最適な食生活とは?
粗食にも関わらず、健康で頑強だった江戸期の日本人
明治期から戦後にかけて、急速に体格が良くなった日本人ですが、その一方で糖尿病や血栓症など生活習慣病も急速に増えています。その原因の1つが「食の欧米化」です。肉や脂肪の摂取が増え、それまで玄米などで摂っていた炭水化物が小麦粉や白砂糖などの精白されたものへと置き換えられたことなどが考えられます。
そうした食事を見直す上で、ぜひとも取り入れたい知恵として注目されているのが、400年前の江戸時代の食生活です。江戸期は長らく平和が続き、様々な食文化が研究され、洗練されてきた時代。日本人に最適な食生活が確立したと言っても過言ではないでしょう。
しかし、確かに今と比べてかなり質素な内容で、「こんな食事では長生きできないのではないか」と感じる方もいるかもしれません。確かに、当時の平均寿命は50代でした。しかし、乳幼児の死亡率が高く、飢饉による栄養不良などもあり、かつ今のような医療が揃わない中で、成人となった人は70〜80代まで生きられたことをみると、やはり優れた食生活であったことは間違いありません。
むしろ、当時の粗食を食べていた日本人は、日本を訪れた外国人が驚嘆するほどの頑強さを持っていたと言われています。たとえば、日本にキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルは、「野菜や山菜を多く食べ、魚や米、麦を時々食べる程度なのに、この国の人達は不思議なほど達者であり、まれに高齢に達するものも多数いる」と書き残していますし、明治初期から30年近く日本に滞在したドイツの医師・ベルツによる実験では、「粗食」に見えた食事を欧米型に変えたところ車夫のスタミナが歴然と低下したといわれています。
いわゆる質素な和食こそ、日本人の健康と強靭な肉体を保ち、長寿の秘訣というわけです。
滋養強壮に良いといわれる山芋・自然薯も現代人はあまり食さなくなってきている。
「養生訓」から今に通じる「正しい食」の教え
それでは「玄米と一汁一菜」の内容や食べ方はどのようなものだったのでしょうか。それを今に伝えるのが、儒学者かつ医師であった貝原益軒が記した「養生訓」です。そこに書かれているのは、私たちが今もよく耳にするものばかり。その一部を紹介しましょう。
腹八分目
食べる量は腹八分目を適量として、「ものたりないくらいがよい」としています。そして、食べ過ぎで「腹の中を戦場としてはならない」とし、「五味」(酸、苦、甘、辛、塩辛)のバランスをとることや、夜遅くの飲食を禁じることなどを上げ、調子が悪いときの絶食なども推奨しています。
動物性たんぱくは控えめに
『穀は肉に勝つべし、肉は穀に勝たしむべからず』としており、主食を米として動物性たんぱく質を控えることを勧めています。素材の味を活かした淡白であっさりした味付けで、味が濃い物や脂っこい物、古く臭く色や香りがあせた物などは避けましょう。
体を温めるものを
生ものや冷えた物など体を冷やすものを摂りすぎるのは好ましくないとし、野菜などでも偏ったものを食べ過ぎると体に滞って害となるとしています。また、益軒が食事とともに重視しているのが運動です。「流水は腐らず」として運動することで血の巡りをよくすることが消化をよくし、健康な体を作るとしています。
こうした食と健康に関する注意点を簡単にまとめたのが「長寿十訓」です。
- 少肉多菜
- 少塩多酢
- 少糖多果
- 少食多齟
- 少車多歩
- 少衣多浴
- 少煩多眠
- 少怒多笑
- 少欲多施
- 少言多行
それぞれの意味はまさに字の通り。いずれも覚えやすいので心に留めておくとよいでしょう。
カギになる「玄米」「発酵食品」「山海の幸」
さて、それでは具体的にどのようなものを食べていたのでしょうか。そのポイントとなるのが「玄米」「発酵食品」、そして豊かな「山海の幸」です。
主食となる玄米
玄米は微量栄養素の宝庫です。前述の「江戸煩ひ=脚気」は、白米を食べ続けたことが原因。玄米に含まれるビタミン1(チアミン)の欠乏によって心不全と末梢神経障害をきたす疾患でした。その他、ビタミンEやカリウム、たんぱく質、食物繊維などを豊富に含んでおり、粗食ながらも日本人がしっかり栄養素を摂れていたのは、この玄米を常食としていたからといっても過言ではないでしょう。
また、保温期などなかった江戸時代には、おにぎりや酢飯など、冷えたごはんとすることが多かったことから、難消化性デンプンとなって腹もちをよくし、急激な血糖値上昇を防ぐなどの効果も得られたと考えられています。逆にお粥や雑炊など、胃腸が弱った際には消化よくいただける形に変えられるのも米食の利点と言えるでしょう。
味噌などの発酵食品
食事の一部として欠かせない「味噌汁」など、和食では発酵食品を多用しています。もとは保存のために発達した技術ですが、発酵が旨みを増し、栄養を補完することにつながっているのは不思議なもの。各地にそれぞれの風土に合った様々な発酵食品があり、その豊かさには驚かされます。
なお、近年では味噌を仕込むこうじ菌である「ニホンコウジカビ(アスペルギルス・オリゼ)」は日本にしか生息しない菌であることが判明し、日本醸造学会によって、“国の菌”にも指定されているとか。同様に発酵食品である甘酒や日本酒、漬け物や糠漬けなどについても様々な健康効果がわかってきています。日本独自の食文化として、次の世代に引き継ぎたいものですね。
旬と地場を大切にした副菜
「山海の幸」を用いた一汁一菜の献立スタイルも江戸期に洗練されてきました。室町時代に確立したものと言われていますが、一汁二菜、一汁三菜など、ご飯と味噌汁を基本とした様々なバリエーションが楽しめます。そして、字で表されるように植物性の「菜」が基本。そこに海に囲まれた日本ならではの海の幸が加わることで、栄養的にも恵まれた健康食となります。
さらに「医食同源」の考えのもと、それぞれの菜について効果を考えながらバランスよく配置されていることに驚かされます。その1つ1つの「菜」の効能や食べ方について考えることも、江戸時代の知恵を知るいい機会になるでしょう。
こうしてみると、私たち日本人なら自然と身に付けていることも多いですよね。近年は、これらを体系だてて栄養学、食文化学として確立する動きも生じていますが、そうした叡智を日常的に活用することによってこそ、現代の食の在り方を見直し、より健康で豊かな人生へとつなげることができるのではないでしょうか。