2017.2.15 水曜日
“酒は百薬の長” 健康効果を高め、季節を味わい 日本の薬酒を楽しもう
お酒は発酵食品の1つ。麹菌や酵母などが生成するブドウ糖や必須アミノ酸、ビタミンなどに加え、体を温め、リラックス効果を与え、胃腸の働きなどを良くするといった効果も期待されます。さらに、お酒に“漬け込む”ことによって、アルコールの作用で様々な栄養素が溶け込むと味わい深く、栄養価もアップ。医術がまだ広く一般化していなかった時代には、お酒は滋養強壮材や薬としての働きも持っていたんですね。江戸時代に好まれた、その楽しみ方の一部を紹介しましょう。
熱々のお酒に旨みが溶け込んだ「強壮酒」
強壮酒というと、ハブ酒やマムシ酒のようなものを想像するかもしれません。しかし、古くから日本では、魚介類や野鳥の栄養や風味を移したお酒を「元気が出るお酒」として飲む習慣がありました。
羽節酒
江戸時代には、キジやカモ、ウズラやタカ、ツグミなど、野鳥の肉や骨を味噌などとともに熱した日本酒に入れ、旨みを酒の中に抽出させて飲んだという記録が多数残っています。ただし、現在の日本は、法律でむやみに野鳥を獲ることは禁じられているので、もはや幻の味となっています。
ひれ酒
乾燥させた河豚のひれを用いた「ひれ酒」は、今もおなじみの冬の愉しみの1つ。ひれを強火で焦がし気味にあぶって器に入れ、熱燗の日本酒を注いで蓋をすると、香味が酒にうつり、コクや旨み成分が溶け出して何とも言えない味わいが楽しめます。このとき、コラーゲンやアミノ酸などがお酒に溶け出し、熱燗とアルコール効果で体もほかほか温まります。血行を良くして、お肌もつやつやに。
骨酒
焼き物にした鯛や甘鯛を食べ終えたあと、骨のみを再び火にかけて焦がし、器に入れて、熱燗の日本酒を注ぎます。骨からコクや旨みが溶け出し、濃厚な味わいに。また、山間部などを中心に、鮎やイワナなどの川魚を丸ごと焼いて、そこに熱燗の日本酒を注ぐ骨酒も親しまれてきました。山仕事の後などに屋外では少しずつ回し飲みする習慣もあったようです。
甲羅酒
カニの甲羅にお酒を注いで飲みます。その際、少し甲羅をあぶると香りが引き立ち、濃厚な風味に。なお、江戸時代中期より食べられるようになった「すっぽん」の甲羅を干し、たものを用いたものは珍味中の珍味とされていました。いずれも高級品なので、江戸の庶民のものというより、かなり裕福な商人などが楽しんだようです。
各種ブレンドに創意工夫がなされた「薬酒」
中国から漢方が伝わると、その考え方に基づき、様々な薬酒が作られました。最もポピュラーなのは「お屠蘇」でしょう。その他、各地で漢方の名医などが様々なブレンドの薬酒を作成し、江戸時代には常備薬代わりにする家もありました。
お屠蘇
お正月に1年の邪気を払い、延命を願って飲まれる「お屠蘇」。もとは平安時代から中国から伝わり、貴族の祝儀だったものが徐々に民衆に広がっていったと考えられています。今もお正月の食卓にあがることも多いようですが、その中身について意外に知らない人も多いのでは? 今はパックの漢方をみりんに浸すインスタント式もありますが、正式には桔梗、防風、山椒、肉桂、白朮という5種類の生薬を三角形に縫った赤い絹の袋に入れ、それを酒に漬けて飲み、最終的には井戸に入れて、その水を飲む人は元気でいられるとしました。
漢方酒
漢方が日本に定着するにつれ、その考え方に基づいた薬酒が各地で作られました。CMでも知られる養命酒や、元禄3年に東京・末広町で操業した陶陶酒、広島県鞆町の名産として知られる保命酒などが有名でしょう。漢方医が監修し、それぞれの配合は門外不出というちょっとミステリアスなお酒。近年は飲みやすく仕上げてあるものもあるそうなので、試してみてはいかがでしょうか。
薬草酒
漢方の考え方が浸透しながらも、なかなか漢方生薬を手に入れるのは難しいこと。そのため、日本の風土に合わせた独自の薬草学などに基づく薬酒が各地で数多く造られました。江戸時代中期に刊行された図説百科事典「和漢三才図会」には、家康が愛飲したという紀州勢州の忍冬酒、目や婦人科系疾患によいとされる賀州肥後州の菊酒、南都の霙(みぞれ)酒、浅芽酒などが紹介され、「その他数えたら枚挙にいとまがない」と結んでいます。
まさに、多種多様のお酒の世界。あなたも体調や好みに合わせて、自分ぴったりのお酒を探してみてはいかがでしょうか。
社)日本アンチエイジングフード協会では長野高山村ツアーのラストに、小布施の酒蔵を見学しました。発酵・日本酒の世界は人々の健康と幸せにも欠かせない物なのですね。みなさんもぜひ機会があれば、こうした作り手の工房を見学されてみてはいかがでしょうか?
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