2016.11.29 火曜日

味噌を科学する ~伝統食の味噌汁は、現代人の食べる処方箋~


一つのお椀に三つの総菜、そしてご飯。一汁三菜は日本人の食卓の基本形です。時代により、一汁一菜、一汁二菜と総菜の種類が減ることはあっても、一汁を欠くことはありません。しかも、日々の食事では、出汁や具、味噌の種類を変えることで何通りもの味が楽しめる味噌汁の登場機会が圧倒的に多いのではないでしょうか。「減塩」などで避ける人も増えてきたと言われますが、味噌汁の健康パワーを利用しないなんてもったいない!ぜひとも、今日から毎日の食卓に取り入れましょう。

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味噌汁の健康パワーの秘密は「味噌」にあり!

味噌汁に使われている味噌は、日本が誇る発酵食品の代表格。発酵食品とは微生物(発酵菌)の力で食材の成分が分解され、新たな有効成分が作り出され、もとの食材とは別の香りやおいしさ、栄養効果を持つ食品です。日本の伝統食が優れている点の一つは、発酵食品を積極的に取り入れていることだといわれています。味噌はその一角を成す重要メンバーというわけですね。

そんな味噌の原材料は大豆。大豆は栄養豊富な一方、フィチン酸塩、酵素阻害物質などの反栄養素が多く含まれています。これらの反栄養素は大豆の防衛機能ですが、人間にとっては、ミネラルの吸収や消化を阻害するという困った作用を起こします。この問題を解決するのが、発酵というプロセス。発酵菌のおかげで、これらの反栄養素の働きは抑制され、また有用な栄養成分も新たに生まれます。
熟成中の味噌の中では次のようなことが起こっています。 まず、麹の麹菌(かび:Aspergillus oryzaeなど)により生産された酵素(プロテアーゼやアミラーゼ)にて、原料中のデンプンや大豆タンパク質が分解されブドウ糖、麦芽糖、ペプチド、アミノ酸となります。アミノ酸は味噌の味の中心となる成分で、ブドウ糖や麦芽糖は甘味を与えると同時に、酵母や乳酸菌の栄養源ともなるのです。

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そして、耐塩性の乳酸菌Pediococcus halophilusなどが増殖し、乳酸などの有機酸が生成されてpHが下がります。この乳酸により原料臭が消失し、いわゆる塩なれがよくなります。続いてpHが下がり、酵母の生育しやすい状態になると、Zygosaccharomyces rouxiiやCandida属の耐塩性酵母が増殖し、糖分からアルコールや微量の有機酸、エステルを、アミノ酸からアルコールを生成します。これらは味噌の香味形成に重要な役割を果たします。

このように味噌の熟成は、かび・酵母・細菌および酵素の絶妙な連係プレーが行われ、数日~1年ほどの長い時間をかけておいしい味噌が出来上がるというわけです。

味噌汁の健康効果の秘訣は「少しずつ毎日」

発酵食品の乳酸菌やその生成物を体内に取り込むと腸内の善玉菌が活性化し、悪玉菌とのバランスが整います。免疫力を高める中枢である白血球のリンパ球の約7割が腸にあり、その腸内環境を整えることで、免疫力の強化に役立ちます。

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ただし、発酵に関わる細菌や酵母などの微生物は高温の環境では死滅してしまいます。味噌汁を作るときは、具材に火を通した後、火を止めてから味噌を溶き入れるなどの工夫をしましょう。また、味噌に含まれる植物性乳酸菌は胃酸に強く、生きたまま腸に届いて整腸を促しますが、腸内に長く留まることはできません。そのため、一度にたくさん摂るよりも、少しずつでも毎日摂るほうが効果的。その意味でも、季節や気分に応じて様々な具を楽しめ、飽きずに飲める味噌汁がおすすめというわけです。
また味噌汁を毎日飲む人とそうでない人の胃がんの発症率が違うという論文や味噌に関する様々な調査も進んでいます。まさに現代人の食と病をリセットする処方箋的役割が味噌汁は、になっているといえるでしょう。